研究概要 |
食品中には変異原物質とともに抗変異原物質も存在すると考えられる. 本研究は特に, 食品中の抗酸化成分の抗変異原作用に着目し, それらのフリーラジカル捕捉作用を介した変異原生成抑制作用のメカニズムに関する知見を得ることを目的として以下に示す結果を得た. 1.フリーラジカルによるベンツピレンキノン生成: アゾ試薬によるフリーラジカル発生系によりレシチンリポソーム中のベンツピレンが変異原作用を示すキノンを生成することを高速液体クロマトグラフィーで確認した. さらに, ベンツピレン以外の多環芳香族炭化水素でも発がん作用の強いものほどフリーラジカルとの反応性が高いことから発がん物質の発がん作用にフリーラジカルとの反応が関与することが強く示唆された. 2.抗酸化剤のフリーラジカル捕捉作用とベンツピレンキノン生成抑制: 上記反応系におけるベンツピレンキノン生成に対する各種抗酸化剤の抑制作用を検討した. その結果, 水相で発生したラジカルに対する捕捉作用はリポソーム膜中に存在するα-トコフェロールやBHT,BHAでは弱く, 水溶性抗酸化剤ではビタミンC(アスコルビン酸)の効果は尿酸よりも弱いことがわかった. さらに, 脂質過酸化反応に基づくベンツピレンキノン生成に関しては脂溶性抗酸化剤で抑制がみられたが, その順はBHT<BHA<α-トコフェロールであった. 一方, Fe^<2+>による脂質ヒドロペルオキシドのレドクス分解で生じるラジカルによるキノン生成はBHT,BHA,α-トコフェロールで効果的に抑制された. 以上のことから抗酸化成分による抗変異原作用をフリーラジカル捕捉作用で把握するには, それらの抗酸化活性とともに, 食品における存在状態, フリーラジカルの発生部位および変異原物質の存在部位に留意する必要があることが示された.
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