研究概要 |
リポシドマイシンB(LipB)は、放線菌Streptomyces hygroscopicusによってつくられる分子量1009,【C_(42)】【H_(67)】【N_5】【O_(21)】Sの分子式を有するヌクレオシド抗生物質であり、紫外部吸収スペクトル、酸加水分解物のEIマススペクトルからウラシル核を有する。また赤外吸収スペクトル及びFABマススペクトルの解裂パターンから硫酸エステル基の存在が推定された。LipBの酸加水分解により、脂肪酸(GC/MS及びLipBの【^1H】-【^1H】COSYスペクトルから3-hydroxy-12-methyltridecanoic acid),3-pyridinol(5-amino-5-deoxy xylose由来),ヌクレオシド部分(【C_(17)】【H_(22)】【N_4】【O_9】)が確認された。また1Mトリフルオロ酢酸による加水分解により、ジカルボン酸(GC/MS及びLipBの【^1H】-【^1H】COSYスペクトルから3-methylglutaricacid)の存在も確認された。ヌクレオシドの【^(13)C】NMRは、このものがウリジンを部分構造として有することを示唆している。LipBのアルカリ加水分解により、脱水を伴なった脱アシル体(分子量637)が得られた。このもののNMR、特にNOE差スペクトルから、ウリジンの5´に結合した特異な構造を有するピペリジノース誘導体の存在が示唆された。このピペリジノース誘導体にはさらに、硫酸エステル基のついた5-アミノ-5-デオキシフラノペントースがグリコシド結合し、隣接位に脂肪酸側鎖がエステル結合している。LipBの還元分解(LiB【H_4】)より得られた脱水を伴なわない脱アシル体の【^1H】NMRの比較から脂肪酸の位置、3-methylglutaric acidの位置が決定され、LipBの平面構造がほぼ明らかになった。その構造は細菌細胞壁成分ペプチドグリカンの生合成過程のうち、リピドサイクルの初発反応の基質遷移状態と類似しており、作用点もリピド中間体の合成を阻害することが示された。構造と作用の面で極めて興味深い。
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