研究概要 |
本年度は林床で越冬したエゾマツ種子を侵す菌類の検出と、種子の発芽床となる土壌表層部の乾燥について調査を行った。 前年度積雪前に林床に置いたエゾマツ種子を、融雪後に回収し種子内に侵入していた糸状菌を分離した。17種類の糸状菌が分離されたが、検出頻度の多かったのはRacodium therryanum(以下R.菌と略記する)がきわめて多く、次いで未同定菌のW.C.-3,W.C.-1,Arthrinium sp.であった。接種試験によって病原性を確認したところ、R.菌のみがエゾマツ種子に強い病原性を持つことが明らかとなった。またこの菌は、林床がササでおおわれている所や樹冠下でササの少ない所など天然林内の腐植質に富む所に分布し、倒木上やかき起し地など腐植質に欠けている所には存在しないことが判明した。 また、この菌の種子への侵入に伴う健全率の低下を5℃,0℃,-5℃の3温度段階で試験したところ、0℃と5℃ではR菌接種後90日目には健全率がゼロとなったのに対し、-5℃ではなお70%の健全率を示し、供試種子本来の健全率80%と大差なかった。-41.2℃という日本の最低気温を記録した北大雨龍演習林の針葉樹林内での温度は、-38℃という気温の時でも地表面では0℃にすぎず、積雪下の林地ではエゾマツ種子がR菌に侵される条件が備わっていることが判明した。 また、土壌含水率について見ると鉱物質土壌(A層)上部では、無積雪期間を通じて30〜40%で推移したが、最上層のL層の含水率は18〜73%と変動が大きく、しかも越冬した種子の発芽期にあたる6月の土壌最上層L層の含水率は18〜20%と乾燥が激しく、菌類と同様にL層の乾燥も稚苗発生の阻害要因であることが判明した。 今後は陽光量と稚苗の生育、R菌の土壌層位別分布を明らかにし天然更新促進技術の確立をはかりたい。
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