研究概要 |
昭和57年に東京大学北海道演習林でアカエゾマツ(g)とエゾマツ(i)との天然雑種と思われる個体を発見して以来, 代表者らはトウヒ属の節間交雑育種の一環として, 昭和61年度から国内の両節樹種の相接して自生する地域において天然雑種の発見に努め関連の調査に当ってきた. 本年度(昭和62)は本州では恵那山, 木曾駒ヶ岳, 八ヶ岳西岳(再調査)を調査したが, 前年同様トウヒのみの地区, ハリモミ節樹種のみの地区がそれぞれ離れており, 特に後者の個体群の衰弱の目立つところが多かった. 一方, 北海道では前年までの調査地数カ所の詳しい再調査のほか, 新たに宇土呂, 定山渓, 津別, 勇駒別などを調査地に加えた. それによって更に勇駒別で1本, 東大演習林で4本計5本のg×j推定天然雑種を抽出した. 従って, これまでに道内の天然林で発見された雑種の合計は9本となった. 本年の調査では平行して, これらの推定天然雑種を取巻くg及びjの林分から多くの標本木を抽出し, それぞれの新条の有毛性と色, 針葉断面の形状と気孔の分布, 開芽等の植物季節学的現象, その他の形質について詳細な計測分析を行なった. また, 人工交配によって育苗中のg×jF_1家系や見本林選抜推定雑種個体(既報)の人工交雑次代家系(戻し家系)との比較も行なった. その結果, これら9個体には上記各形質で両種の中間的値を示すもの(A)と有毛性や気孔分布では明らかにjと異なるが外観では区別のつかないもの(B)とが分別され, Aはg×jF_1に, またBはF_1×jにそれぞれ対応するものであると認められた. 今後, 天然林中における各個体の位置関係の解析と合わせて, 調査木から採種育苗した次代苗の観察計測を進め, 雑種を生じたメカニズムの解明に近づきたいと考えている.
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