この研究では、縦圧縮荷重を受けた木材の応力とひずみの挙動を木材ブロック内の早材部と晩材部でとらえ、破壊に至る細胞壁形態の観察結果と結びつけて考察を加えた。得られた成果を要約すると、つぎのとおりである。 1.気乾状態の木材では、負荷時のひずみの生じ方あるいは除荷後のひずみ回復が、早材部と晩材部とで全く異なる様相を呈した。つまり、晩材部は木材ブロック全体にわたって弾性的な変形挙動を示す一方で、早材部は局所的に塑性的な挙動を示した。 2.比例限度よりも低い荷重のもとでも、気乾材ブロック中の早材部に比べて晩材部で大きな応力度が生じ、荷重の増大に伴って、晩材部でより著しい応力度の上昇を認めた。このことは、極めて小さな縦圧縮荷重でも早材部細胞壁にしわ状の残留変形が起きやすいこと、また木材が破壊する直前まで晩材部細胞壁には局所的な変形や破壊を認めにくいことと深く関係している。要するに、比例限度以内の荷重のもとでも、晩材部は主体的に荷重を受ける役割を果たしており、さらに比例限度以上の荷重のもとでは、ますますその役割が高まる。他方、早材部は晩材部に比べて低い応力度でもいわゆる破壊を引き起こし、早い時期に強固性を発揮できなくなる。 3.飽水状態の木材では、負荷時の応力あるいはひずみの生じ方、そして除荷後のひずみ回復に、気乾材におけるほど早材部と晩材部との間に著しい相違を認めることができなかった。この現象は、比例限度以上の荷重を加えても、飽水材には細胞壁にしわなどの塑性変形ないしは破壊が起こりにくかったことと関連がありそうである。 破壊に至る過程で木材内の早材部と晩材部に生じる応力とひずみの挙動に、荷重が加わる速さ、あるいは細胞壁の質と量がどんな影響を与えるかを究明することが、今後の課題である。
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