研究概要 |
この研究では, 木材の力学性を論じるために, 破壊に至る仮道管壁形態の観察結果と年輪内の力学的挙動とを関連づけ, さらに年輪構造の力学性関与の考察を試みた. そこで, スギ材を用いて縦圧縮負荷を行った. 研究の成果を要約すると, つぎのとおりである. 1.気乾材では, 負荷時と除荷後のいずれでも, 年輪内の早材部と晩材部との間で著しく異なる挙動を認めた. すなわち, 早材部は低い応力でも塑性的な挙動を示すのに反して, 晩材部では木材ブロックの破壊直前まで弾性的な挙動を認めた. 2.飽水材では, 早材部と晩材部のいずれでも, 荷重と変形との関係に気乾材ほどの著しい相違を認めなかった. 3.負荷による年輪内の応力負担分布は, 細胞壁率分布と緊密に対応し, その関係が極めて強かった. 4.肥大生長の速さの相違が, 年輪内の応力負担分布に影響をもたらした. つまり, 生長が遅い林木と速い林木とから得られたそれぞれの木材では, いずれも主体的に荷重を支えているのは晩材部仮道管壁であったが, 後者では前者に比べて, 応力負担への早材部仮道管壁の関与の割合が増大した. 5.年輪内に生じる応力度への細胞壁率とミクロフィブリル傾角の影響は, 比例限度以上の高い応力レベルのもとで, しかも早材部仮道管壁よりも晩材部仮道管壁で強く現われた. 以上のように, 木材が荷重を受けたとき, 年輪内の早材部と晩材部の挙動に相違を認め, さらには早材部仮道管壁と晩材部仮道管壁との力学的役割りを明らかにした. しかも, 木材の年輪内での力学的挙動には年輪構造が深く関与していることがわかった. したがって, 木材の力学性を論じるには, 林木生長とのかかわりを無視できない.
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