グアヤシル核およびシリンギル核を有する簡単なリグニンモデル化合物を用いた実験により、縮合型グアヤシル核および縮合型シリンギル核は低分子フェノール類と容易に核交換反応を行うことが知られた。一方、広葉樹リグニン中に約50%存在するシリンギルリグニンの硫酸処理中におきる化学的変質について検討するために、シリンギルグリセロール-β-シリンギルエーテルをグアヤシルモデルと同様に処理した。その結果、一般的な加水分解や縮合反応に加えて、特に濃硫酸中ではより立体障害の受けているメトキシル基が分解して水酸基となり、次いでβ-エーテル結合を開裂して環状エーエル体を与えることが明らかとなった。この低分子化反応がシリンギルリグニンは72%硫酸に溶解するという事実に大きく関与しているものと推測される。一般に硫酸リグニンは高度の縮合構造のために有機溶媒に不溶であるが、化学成品として有効利用するには有機溶媒に可溶化し化学反応を行わせる必要がある。前述したように縮合型芳香核は簡単なフェノール類と核交換し低分子化することが明らかにされたが、針葉樹硫酸リグニンも濃硫酸および塩化アルミニウムを触媒としてフェノールと反応させるとほぼ完全に5%アルカリや含水ジオキサンに溶解することが知られた。従って、硫酸リグニンの化学成品変換への途が開らかれたと思われるが、他の触媒や核交換反応以外の方法についても検討する予定である。加水分解リグニンの一つである塩酸リグニンについては、フェニルクマランをモデル化合物として塩酸処理を行なうと少量の縮合物に加えて多くは原料として回収された。β-アリールエーテル型モデル化合物の結果も考慮すると、塩酸リグニンはプロトリグニンに比べ約20%縮合構造の多いリグニンとなり、硫酸リグニンに比べると変質の少ない反応性に富むリグニン試料と言えよう。なお、硫酸リグニンよりの化成品の変換について検討中である。
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