研究概要 |
下痢性貝毒は、Dinophysis属の渦鞭毛藻を摂食したホタテ貝,コタマ貝などが毒化する現象であり、水産上の大きな問題となっている。Dinophysis属の中で毒性が確認されているのは、D.fortiiのほか数種類であるが、何れも培養ができないため、毒化機構などに関する研究は行き詰っていると言える。これらの種の生態学的特徴や分類形質の変異等を明らかにすることを目的とし、培養法の確立を試みた。これらの種は完全独立栄養ではなく、有機栄養,または補食栄養を行っていると考えられるため、本年度は先ず有機栄養の可能性について検討を加えた。 1986年6月に岩手県越喜来湾で採集したD.fortiiを、滅菌海水で数回洗浄し、直接各種の有機物(ビタミン類,植物ホルモン,イースト抽出物,プリン・ピリミジン類等)を加えた培養液に無菌的に接種し、その後の細胞数の変化を観察した。この結果、全ての培養液において、D.fortiiは10日以内に死滅した。一方、同時期に10μmのプランクトンネットで濾過した海水に接種した細胞は約5ケ月間生存し、その間に細胞分裂も確認された。濾過海水中には、小型の珪藻,渦鞭毛藻,その他の鞭毛藻が長期間存在した。D.fortiiは濾過海水中に生育したそれらの微小生物を捕食することによって生存することができたものと考えられる。 次年度に関しては、D.fortiiの捕食栄養に着目し、餌生物の検索に主眼を置いて研究を進める。また、本年度は日本近海に出現するDinophysis属の渦鞭毛藻の分類学的特徴,出現海域等について検討し、その成果を出版した。次年度は、特に分類学的に混乱のある2,3の種について、国外の研究者との間で試料の交換や情報の交換を行い、混乱の解消に努める。
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