研究概要 |
我が国では、小型歯鯨類(イルカ類)を対象としたイルカ漁業が幾つかの地方で伝統的に営まれている。イルカ類の水揚地である和歌山県太地,岩手県大槌などに出掛け、主要対象種であるスジイルカ,イシイルカ,アラリイルカおよびコビレゴンドウの生物試料(1:年齢査定用の歯,2:再生産に関する生殖腺,3:食性調査用の胃内容物,4:系統群の解析用の頭骨)ならびに漁獲量の資料を入手した。これらの試料は研究室に持ち帰り、分析可能な状態に処理した。歯は脱灰・染色後、永久プレパラートにして年齢査定を行った。生殖は重量計測後、雌では卵巣をマクロレベルで観察し、黄白体の有無を調べ、そのサイズを計測した。雄では性的活性を調べるために組織標本用に保管した。胃内容物に関しては、第一次ソーティングを行い、魚類、イカ類、甲殻類などに大別し、魚類では耳石、イカ類では口器の形態から種あるいは属レベルの同定を行った。頭骨は解剖後、計測可能な骨格標本作成を行った。漁獲資料はコンピューター処理が可能な状態にし、保管した。 予備的な解析の結果では、イシイルカには北西北太平洋,ベーリング海,日本海に独立した系統群が存在する可能性が示唆された。また、コビレゴンドウには、日本の太平洋沿岸の南北に独立した系統群が存在する可能性が示唆された。現在、これら各系統群単位での生活史研究の予備的な解析が行われている。 今後は、今年度の予備的な解析で示唆された幾つかの研究内容に関し、より豊富な資料を収集し、より精度の高い研究成果が得られるように作業を進めていきたい。そして、イルカ漁業の主要対象種の資源管理に必要な生物学的特性値の推定を行っていく。
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