今年度は、当該研究の初年度にあたるため、リーダープリンターの購入の遅れ等により、61年度の計画を全て達成することは出来なかった。活字として発表した内容は、"研究発表"欄に示した如くである。これは、長・植田両家による、大正期における沖合漁業(機船底曳網漁業)への貸付契約の内容に関して分析・検討を試みたものである。両家の沖合漁業への貸付けは明治後期より続くのであるが、沖合漁業の動力化が盛んとなった大正期に入ってからの貸付内容は、明治期よりも尚一層産業金融的な性格ガ強くなっていることが判明した。それは貸付金の使途を、底曳網漁業の創業資金に限定し、生産手段の現物形態での貸付けを行なっている点である。貸し倒れ防止のために、水揚港を指定し、そこで水揚げの中から何割かを控除して、元金返済と利子徴取に充当させる、という前期性もみられるが、貸付金の使途も指定せずに不動産を担保に貸付け、返済不能の場合は担保を差押さえる、という所有地の拡大を目的とした寄生地主的貸付けとは異なった、利殖目的の貸付資本としての性格が濃厚となっている。同様に借り主である当該漁業の船頭も、機能資本としての様相を整えてきている。ちなみに、明治期から同期にかけて、沿岸の小漁業者であった者が両家の出資を受け、当該漁業を営んで借入れ金を返済した後、船主として独立する例が10件ほどあることが判明した。 62年度においては、前年度に整理した両家史料をもとに、大正期についてまとめ、学会誌への投稿に、前半を費やす予定である。その次に、昭和戦前期における両家史料を整理し、学会誌に投稿する積りである。この時期は漁場の拡大による漁船大型化が要請されたので、それに伴う資金需要期にあたっている。それに両家がどう対拠したかが、分析のポイントになる。本年度も、現地への補足調査を予定している。
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