今年度は、岡山県三大河川の一つである吉井川水系の長短流出と洪水流出を検討した。吉井川水系には、いくつかの流量観測点があるが、ここで対象としたのは、岩戸地点(1717km^2)、久木地点(979km^2)、湯郷地点(490km^2)の3地点における洪水流量と長期流量である。各流域ごとに長短期流出両用モデルの最適同定を行い、その適用性を調べた。得られた成果や問題点を要約すると以下のようである。 1.長短期流出両用モデルの洪水ピーク流量発生条件を理論的に考察したところ、計算ピーク流量はそのときの降雨強度よりも大きくはならないことがわかった。この条件は、たとえば、降雨が小降りになってから洪水ピークが発生するような大流域では、実測ピーク流量をうまく再現しにくいことを意味している。そこで、このことを考慮して、洪水時には遅れ時間を導入した。 2.吉井川水系内に所在する岩戸、久木、湯郷の3流域について、昭和54・55年の日平均流量とこの間の4出水を対象に、数学的最適化手法により上記モデルの最適定数を探索した。各流域で得られたモデルは、昭和40〜57年の18年間の日平均流量と洪水流量をともによく再現していることがわかった。 3.洪水流量が最上層タンクでほぼ説明できることに着目して、簡便な洪水流量予測方式を提示した。この方式はカルマンフィルタと同程度の洪水流量予測結果を与えていることがわかった。 4.長短期流出両用モデルは14個の未知定数をもっているが、これらの定数は互いに独立ではなく、このモデルの総合化を行うには、モデル定数間の相互依存関係を明らかにする必要がある。
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