本研究では、洪水流出と長期流出を同時に連続して解析できる長短期流出両用モデルをいくつかの流域に適用して、モデルの適応性や問題点を検討するとともに、このモデルを活用した洪水流量予測方式についても考察を加えた。主な成果や今後の問題点を以下に要約する。 1.長短期流出両用モデルの洪水ピーク流量発生条件を理論的に考察して計算ピーク流量はそのときの降雨強度よりは大きくはならないことを示した。この条件は、たとえば大流域では、実測ピーク流量をうまく再現しにくいことを意味している。この難点を避けるために、洪水の遅れ時間を導入した。 2.岡山県吉井川水系内に所在する岩戸、久木、湯郷の3流域、岡山県北部の増川上流部に所在する湯原ダム流域、および滋賀県東部愛知川上流に所在する永源寺ダム流域について、これらの流域で観測された洪水流量と長期流量を対象に、各流域ごとに、数学的最適化手法で上記モデルの最適同定を行った。各流域のモデルは、10年以上にわたり日流量と洪水流量をよく再現しており、実用には十分使えることがわかった。 3.放牧草地流域にも上記の流出モデルを適用したところ、長期流出の再現性は十分であったが、洪水の再現性に改善の余地が残されていた。 4.洪水流量が最上層タンクでほぼ説明できることに着目して、簡便な洪水流量予測方式を提示した。この方式は、予測には多方面で利用されているカルマンフィルターと同程度の洪水流量予測結果を与えていた。 5.上記の流出モデルは14個の未知定数をもっており、これらの定数は互いに独立ではないため、総合化を行うには、定数間の相互依存関係を明らかにする必要がある。
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