ウシ卵巣から種々な発育段階にある卵細胞を分離する方法を確立し、サイクリックAMPにより分離卵細胞の成熟能力を改良しうることを明らかにした。また研究の過程で卵胞液中にウシ卵細胞の退行を遅延させる因子の存在を認め、当該物質を分離するとともに、その化学的性状を明らかにした。 1.ウシ卵細胞の成熟能力の改良 卵巣をカミソリで細断後、ワーリングブレンダーで破砕し、200μmのメッシュを通すことにより30〜50個の基底膜を最外層とする卵胞につつまれた直径30μm以上の卵母細胞を分離できた。トリプシンで処理することにより基底膜を除去しうることを明らかにした。体外培養下において直径90μm以上の卵巣卵が卵核胞の崩壊を誘起することを認めるとともに、サイクリックAMPやホルボルエステルで処理すると第2減数分裂中期への移行率が上昇し、成熟能力を改良することができることを明らかにした。直径30〜80μmの卵巣卵に直径90μm以上の卵巣卵の細胞質を顕微操作下で微小注射したり、双方の細胞を融合することにより、卵核胞崩壊を誘起できることを明らかにした。 2.ウシ卵細胞退行遅延・促進因子 胞状卵胞から分離した卵母細胞を長時間(96時間以上)培養すると細胞質の稀薄化や縮小がみられ、またトリパンブルーにも染色され、死に至ることが認められた。電子顕微鏡によるとトリパンブルーに染まる卵母細胞には空胞の形成、細胞膜の融解像、細胞質顆粒の漏出などが認められるとともに、空胞の周囲には多くのライソゾームが観察された。卵巣から分離したヒアルロン酸様因子やW7は卵母細胞の死へ至る時期を遅延させ、dbcAMPには死の促進作用が認められた。
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