研究概要 |
ヤギ精巣精子の生存維持に好適なインキュベーション条件につき検討した結果、ペトリ皿や試験管を用いる浮遊培養法と透析膜を用いる灌流培養法の間では大差ないこと、試験管内での浮遊培養法の場合に気相のCO2分圧や空気分圧を変えても顕著な影響は認められないこと、インキュベーション温度については37℃よりも20℃、20℃よりも4℃が良好であることなどが明らかにされた。また,媒液としては生理食塩水,5.6%(W/V)グルコース液よりもKrebs Ringer bicarbonate液が精子生存性の維持に効果的であった。しかし、これらのインキュベーション条件下では、精巣精子の運動能の発達や形態変化は認められなかった。 精巣精子は全く不動か、微弱な振動運動を示すにすぎない。しかし、精巣精子にカフェインを加え、34〜37℃でインキュベートすると、大部分の精子が激しい振動運動または旋回運動を行うようになった。さらに、カフェインとともにヤギ精巣上体漿液,精のう腺分泌液,精漿,ならびに精管膨大部,前立腺,筋肉,心臓,副腎などからの抽出液,または鶏卵卵黄を加えてインキュベートすると、精巣精子は頭部のローテーションを行いながら前進するようになった。このような前進運動誘起効果は精漿で最も強く、ついで精のう腺分泌液と精管膨大部抽出液であった。なお,精巣上体通過に伴う精子の運動能の変化について検討した結果、運動能の著明な発達は精巣上体体を通過中に生じること、またカフェインと精漿の添加によって誘起される精巣精子の前進運動は精巣上体頭の遠位部で観察されるものにほぼ等しいことが判明した。 適当な条件下でインキュベートされた精巣精子は透明帯除去ハムスター卵子に侵入し、前核を形成することが知られ、このことから精巣精子による体外受精の可能性が示唆された。
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