研究概要 |
哺乳類の体内におけるメチオニンスルホキシド(MSO)の栄養上の有効性については、ここ10年の間にかなりはっきりしてきている。筆者らは、反芻家畜のルーメンに生息する繊毛虫類のアミノ酸代謝に関する一連の研究過程で、その内因性の代謝産物の一つとして、たまたま、MSOを分離同定した。また、MSOはルーメン液や反芻家畜の血中にも存在することがすでに知られていた。これらの事実から、反芻家畜のMSOレダクターゼ活性(MSOをメチオニンにもどす酵素)は、単胃家畜のそれよりも高いのではないかとの仮説をもつに至り、本研究を企画した。材料として、宮崎市内で屠殺された牛及び豚の肝臓及び腎臓を使用し、まず、各動物及び臓器毎に同酵素活性の最適測定条件を検討した。最初に、各臓器のホモジェネートの酵素活性を超遠心(10万xg,60分)上清液及び同沈澱の活性と比較し、いずれの臓器においても活性は上清液に認められることを確認した。以後、便宜上、高速遠心上清液(27,000xg,30分)を粗酵素として用いることにした。続いて、この粗酵素液により最適pH及び最適温度を検討し、牛肝:pH6.0、33℃;牛腎:pH6.7、39℃;豚肝及び腎:pH7.0、37℃であることが分かった。次に、MSOレダクターゼ活性に対する還元剤の促進効果を検討すると、牛豚共に、肝臓ではNADHとNADPHが同程度に促進し、腎臓ではNADPHが大きな促進効果を示すことが分かった。肝臓にNADH、腎臓にNADPHを用いた最適条件下での最大活性を得るための基質濃度(mM)とKm(mM)値は、牛肝:0.80、0.158;牛腎:0.60、0.064;豚肝:0.25、0.049;豚腎:1.00、0.116であった。最後に、最大活性を得る条件下(ただし、温度は39℃)で牛17頭、豚12頭分の同酵素活性を測定した結果、豚が比較的近似の値を示したのに対して、牛では個体差が大きく、この酵素の誘導性が示唆された。全体の平均値(組織重量当り)で見れば、牛肝の活性は豚肝の3.6倍、牛腎は豚腎の1.15倍であった。
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