視床下部には30種類以上の生物活性ペプチドが同定されており、これらの産生細胞は視床下部で複雑なシナプスを作って神経調節を行う一方、軸索末端からペプチドを下垂体門脈中に放出して、下垂体前葉をホルモン性に支配することが、各種実験や免疫組織化学法によって明らかとなった。 この研究は下垂体前葉の機能に関連すると考えられる神経ペプチドの視床下部における分布や、それが正中隆起から下垂体門流中へ放出されて前葉の各部に至る経路について免疫組織化学的に検討した。その結果、視床下部における各神経ペプチドは、それぞれの経路を経て下垂体前葉の特定の部位に至って、その機能を支配していることが明らかとなった。 研究成果は主に原著論文、一部は総説として発表した。その概要を記す。 1.各種動物(ウズラ、ハムスター、コウモリ等)の下垂体前葉の免疫細胞化学的研究を行い、その細胞構成と各細胞型の分布を明らかにした。 2.ウズラ、ハムスター、コウモリの視床下部において、LHRH、ソマトスタチン、CRF、GRF、TRH、エンケファリン、P物質、NPY、VIPなどの各ペプチド含有細胞の局在およびそれらの正中隆起への経路、正中隆起各部における分布を明らかにした。 3.ウズラおよびニワトリの視床下部における2種のトリLHRHの免疫細胞化学的研究を行い、哺乳類のLHRHとの相違を明らかにし、特にトリGnRH-IIは正中隆起に出現しないことを形態学的に証明した。 4.ハムスターとニワトリの視床下部・下垂体系の発生について検討し、LHRHやソマトスタチンと前葉細胞の発生との関係を明らかにした。 5.コウモリの正中隆起ではCRFやAVPはその前部にのみ出現し、下垂体の前部に流入するが、GRFやLHRHは後部にのみ出現し、下垂体の後部に流入することを証明した。
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