研究概要 |
家畜の間質性腎炎の病理発生に関しては殆ど知られていない. 本研究は, 東京大学農学部家畜病理学教室における病理解剖例の腎病変を材料とし, その病理発生を解明すべく行われた. (A)供試剖検犬86例から次のような知見が得られた. 1)間質性腎炎を示す例は, 年齢と共に頻度が高くなる. 2)若年齢層における糸球体性腎炎例数は間質性腎炎例をはるかに凌駕し, しかも5才以前にそのほとんどが発現するものと予想される結果が示された. 3)全年齢層にわたって, 糸球体性腎炎例数は間質性腎炎例を上回り, 間質性腎炎の認められた例は, 1例を除いてすべて糸球体性腎炎像がみられた. 以上より, 犬における間質性腎炎の多くは糸球体の変化が先行し, 糸球体病変の原因は5才までに殆どが加わるものと推察され, 原因として広く蔓延している慢性ないし不顕性の感染症の関与が強く疑われた. (B)以上より犬においてはDlrofilaria immitis(以下Fと略記)の感染が本病変発生の主な要因であることが予想されたので, F感染犬の腎の特異病変, およびF抗原の関与を明らかにすることを試みた. 107例についての結果より, 1)膜性糸球体性腎炎, 2)尿細管におけるヘモジデロージス, 3)間質性腎炎が, F感染関連主要腎病変であることが結論された. このような病変に, 蛍光色素を標識したF感染犬血清5例を反応させて, F抗原の存在を検討したが, 現在まで陽性の結果は得られていない. (C)猫の部検例においても, 高頻度に間質性および糸球体性腎炎が認められる. 糸球体病変を認めた例について, FIPウイルスの存在を電顕をもちいて検索したが, 現在までにウイルス粒子はみいだされていない.
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