研究概要 |
一般反応について:コリン作動性神経毒であるethylcholine mustard aziridinium ion(AF64A)の腹腔内投与時のLD50は291μmol/kgであるが初日86μmol/kg, 以降12.9μmol/kg/day× 日連続投与すると大脳皮質, 海馬のACh含量, 剔出脳切片よりの電気刺激, 高K^+刺激によるACh放出は著しく減少した. この間, T字迷路における自発性進入岐路交替行動も有意に障害され, 両者間に関連があるように思われた. しかし, 光学顕微鏡および電子顕微鏡による観察では変化を認めなかった. 又, ACh以外の神経伝達物質, ノルエピネフリン, セロトニン, GABA等の脳内レベルには変化がなく, コリン作動性神経への選択性の高い化合物である. 作用機序について:AF64Aによるコリン作動性神経機能障害はコリンの同時投与により軽減されるが, 障害発生後の投与は無効である. AF64A処理ラットに於て海馬, 大脳皮質の神経終末のコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)活性は低下していたが, 抽出した可溶性ChAT標品活性に対しては直接作用を有しなかった. AF64Aは高親和性コリン取り込みを阻害することによりその作用を発現するといわれているが, AF64A処置ラットの脳シナプトゾーム標本は対照と同じ取り込み能を有していた. 大脳皮質膜標本に対する〔^3H〕ニコチンの特異的結合は上昇していた. 此等の結果はAF64Aがシナプス前に作用するとの見解を支持し, ACh放出過程の或る部分を障害する事を示す. 応用について:AF64A処置マウスではデルドリンによる痙攣, てんかん様発作は軽減され, デルドリンの神経毒性症状に中枢コリン作動性神経機構が関与するとの吾々の報告を支持する. 又, AF64A処置ラットの腸管の半数において, 伸展に基づく尾側輸送筋弛緩が消失したので, ラットでは, 腸壁内の知覚神経が伸展を感受してから弛緩を生じる迄の経路にコリン作動性神経が介在する経路がある事を示唆する.
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