脳幹網様体の本質を、発生学的な面より検索する目的で、イモリの脳幹網様体の発生過程を、ゴルジ鍍銀法、ニッスル染色および髄鞘染色を用いて検索した。孵化直後の個体の脳幹は、主に外套層より成り、辺縁層は、周辺部にわずかに認められるのみであった。神経細胞は、外套層内に分布しており、辺縁層には認められなかった。ゴルジ鍍銀標本でみると、外套層の細胞は、辺縁層に向ってのびる太い突起をもった、単極性の梨状形の細胞であった。孵化後数日の固体になると、辺縁層はやや広くなり、少数の神経細胞が認められる様になった。辺縁層の細胞は外套層の細胞の一部が、遊走してきたものと考えられるが、細胞の形態は、外套層内のものとは異なり、左右方向に拡がる樹状突起をもった、多極状の細胞であった。さらに発生がすすむと、辺縁層は広くなり、多数の細胞がみられる様になった。孵化後約2週間すると、辺縁層内に有髄線維が認められる様になり、辺縁層内の細胞は、有髄線維の網目の中にみられる様になった。成体の脳幹では、辺縁層内に有髄線維が非常に多くなり、辺縁層内の細胞は、密な有髄線維の間に散在していた。脳幹の辺縁層内にみられた細胞のうち、延髄および橋の腹側正中部の細胞は、縫線核に相当するものと考えられ、また視蓋の辺縁層内の細胞は、視蓋表層部の細胞群に分化した。辺縁層内の細胞のうち、上記の細胞を除いたものが、脳幹網様体を構成する細胞であると考えられた。以上より、イモリの脳幹網様体は、(1)孵化後に分化してくる領域であり(2)外套層の細胞の一部が、辺縁層内に遊走してきた結果出来たもので(3)発生学的には、縫線核や視蓋表層部の細胞群と相同であり(4)発生初期には、外套層と辺縁層より成る脳幹が、分化発育して行く過程で生ずる領域の一つであって(5)従来考えられていた様に、原始的で未分化な領域というよりも、むしろ分化にすすんだ領域ではないかと考えられる。
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