脳幹網様体の本質を、発生学的な面より解明する目的で、ニホンアカガエル、カスミサンショウウオおよびイモリの脳幹網様体の発生過程を、ニッスル染色、髄鞘染色およびゴルジ鍍銀法を用いて検索した。発生初期の脳幹は、主に外套層よりなり、辺縁層は、周辺部に痕跡的に認められるのみであった。この時期には、神経細胞は外套層内にのみ分布しており、辺縁層には認められなかった。ゴルジ鍍銀標本でみると、外套層の神経細胞は、辺縁層に向かって伸びる太い樹状突起を持った、単極性の細胞であった。発生が進むと、辺縁層は広くなり、やがて少数の神経細胞が認められるようになった。辺縁層に見られた細胞は、外套層の細胞の一部が遊走してきたものと考えられるが、細胞の形態は、外套層内のものとは異なっており、左右方向に広がる樹状突起を持った、多極性の細胞であった。辺縁層にみられた細胞の数は、発生が進むにしたがって次第に多くなった。これらの細胞のうち、延髄や橋の腹側正中部にあるものは、将来縫線核群を構成する細胞になるものと考えられる。これに対して、中脳の辺縁層にある細胞のうち、腹側正中部の細胞は脚間核の細胞になり、視蓋の辺縁層にあるものは、視蓋表層部の細胞層を構成するものと思われる。辺縁層にある細胞から、上記の神経核や細胞層を構成する神経細胞を除いたものが、脳幹網様体の細胞である。網様体の細胞は、主に辺縁層の腹外側部に分布していた。発生が進むと、辺縁層には多数の有髄線維がみられるようになり、網様体の細胞は、有髄線維の間に散在し、網様体特有の様相を呈するようになった。以上より、両棲類の脳幹網様体は、(1)元来辺縁層の一部であり、ここに外套層の細胞が遊走してきた結果できたものであって、(2)発生学的には、脚間核や視蓋の表層の細胞層と相同であり、(3)主に孵化後に分化してくる領域である、ということが明らかになった。
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