生体情報の伝導に最も深く関与するNaチャンネルは生体中の多くのチャンネルの内最も解析の進んだものである。即ち機能的にはゲート機構やイオン選択機構が明らかにされると共に構造的には蛋白質一次構造の決定をみている。しかしながら機能に関連した蛋白の高次構造についてはこれからの解明が待たれている状態である。これまで我々は一貫して薬理学的検索手段を捜して来たが、新たに三種の蜘蛛毒がイカ巨大神経のNaチャンネルに特異的抑制作用を細胞内面からのみ発揮する事を見い出した。日本産女郎蜘蛛及びニューギニア産女郎蜘蛛より各々抽出されたJSTX-3及びNSTX-3更にその環状ポリアミン化合物であるN-4について調べた。いずれも細胞外から作用を示さず細胞内からのみ用量に応じて又膜脱分極の程度に応じてNaチャンネルを抑制する。1×10^<-4>MNSTXるを投与した場合60mVではINaは約半分になるのに対し120mVでは正常時の17%まで抑制される。NSTX-3とJSTX-3におけるINaの抑制の時間経過を調べると単純指数関数で表示出来る。又不活性化過程に対しても顕薯な影響を示さない上に更にNaチャンネルの開く初期過程にも変化がない。これらの事を綜合するとこれら蜘蛛毒はNaチャンネルが開いた際にチャンネル内に入りイオンの流れを障害するといえる。この閉塞過程は受容体と毒との一対一結合によって惹起される。用量-作用曲線から求めたKD_<50>と膜電位の関係は対数関係で表される。JSTX-3におけるKD_<50>及び有効荷電数は2.5×10^<-4>M及び0.43でありNSTX-3については各々4.9×10^<-4>M及び0.64であった。N-4に関しては閉塞過程が2つの時定数で生ずるが、短いものは前二者と同様膜電位依存性を示した。これも基に計算すると8.2×10^<-5>M及び0.36となった。環境PHの変化によりNSTX-3は酸性化で抑制作用が強まるがN-4はアルカリ化によって低下する。JSTX-3は余り影響を受けない。これらの変化は受容体の陰電価の振舞いを反映していると考えられる。
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