神経線維の興奮に伴う膜分子の構造変化の検出を目的として、興奮に伴う神経線維の旋光性変化およびその他の光学的性質の変化の測定を行った。測定装置には自作した高速旋光計を用いた。庶糖溶液による較正の結果、旋光計が正確に作動していることが確かめられた。エビの歩脚神経を材料として用いると、振幅が最大500μ°に達する経過の短い旋光性変化が認められた。形は一相性または多相性で、方向もサンプルにより一定しなかった。このシグナルは、電気的アーテファクトでなく、また、複屈折性、散乱、円二色性、直線二色性のいずれの変化もよらないことが、光学的性質の検討から、確実に示された。複屈折性シグナルは非常に大きいので、旋光性シグナルの遅い部分に重畳して出現することが多かったが、複屈折性シグナルは神経の方位角を変えると変化し、旋光性シグナルは変化しないので、両者を区別できた。シグナルの方向を決定する要因として、歩脚の左右差、用いる光の波長(450ー650nmの範囲で)、および神経の静止時の複屈折性は、いずれも問題とならないことがわかった。神経にかける張力を変えると、シグナルは種々の変化を示し、ある標本では、シグナルの方向の逆転が起った。また、神経の中央部から光学シグナルの誘導を行い、神経の中枢端または末梢端から刺激を加えると、刺激の部位により、旋光性シグナルの符号の逆転が起り、調べた標本の約80%についてこの現象が認められた。旋光性シグナルに重畳して現われる複屈折性シグナルについては、逆転は認められなかった。イカ巨大線維からも同様のシグナルが認められたが、その大きさは20μ°程度で、S/Nが悪く、充分な解析をするに至らなかった。これらの現象の分子機序について考察を行った。伸展の効果の説明には、旋光性が、入射光と膜の分子軸との角度に依存することを考えにいれる必要がある。シグナルには、膜電位の空間的勾配に依存する成分がある。
|