神経及び内分泌細胞の分泌現象のうち、ステロイド系ホルモンの合成分泌については電気生理学的研究が困難であった。本研究ではマウスの精巣間質にあるテストステロン分泌細胞(Leydig cell)をモデルにとり、近年開発されたパッチクランプ法を用いて次の性質を明らかにした。 1.Leydig cellは細胞外液を精巣間質に灌流すると容易に剥れ無傷のまま記録槽内に集めうる。これらは3βヒドロキシステロイド・デヒドロゲナーゼの酵素染色により当細胞と同定された。 2.静止膜電位は、-10〜-40mVで、入力抵抗は1〜5GΩである。強い過分極を与えると通電後に活動電位(オフ・レスポンス)が生じる。膜電位固定法によりこの電流成分を解析すると、脱分極で一過性に開く【Ca^(2+)】チャネルを通る内向き【Ca^(2+)】電流によることが判明した。 3.生理的な膜電位の範囲では外向き電流はほとんど認められないが、強い脱分極(+35mV以上)を与えると【K^+】による外向き電流が誘発される。電流振巾は細胞内【Ca^(2+)】濃度を高めると著増した。単一チャネルの開閉に伴う電流を記録し解析した結果、平均のチャネルコンダクタンスは130pSであった。 4.Leydig cellは数個が塊まり集団をなすことがある。これらの1つの細胞に蛍光色素(Lucifer Yellow CH)を注入すると直ちに集団内の細胞に拡散するのが認められた。2本のパッチ電極を隣接する細胞のそれぞれに適用して、一方に電流を注入し膜電位を変化させると他方の細胞からほぼ等しい膜電位のふれが観察された。平均の電気結合比は0.84。 以上の事からテストステロン分泌細胞には膜電位依存性の【Ca^(2+)】チャネルと、高い単一コンダクタンスを有す【Ca^(2+)】依存性【K^+】チャネルが存在し、細胞集団は強く電気的に結合していることが判明した。 来年度はこれらの機能的意義を更に解析する。
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