研究概要 |
1.Aplysiaの中枢神経節内に同定された神経細胞(【R_(12)】)にイノシト-ル三リン酸(Ins【P_3】)を微量圧注入して発生するslow outward current(Ins【P_3】-induced current)のイオン機構を解析した。膜電圧固定下(MEZ-7101,EPC-7使用)で記録されるこのIns【P_3】-induced outward currentは、過分極側でその振幅が減少し、【K_+】イオンの平衡電位(-80mV)で消失し、更に過分極側で逆転した。 2.Ins【P_3】-induced currentは膜コンダクタンス上昇を伴い、そのピーク時でコントロールの400%に達し、ある種のイオン透過性増大を示唆した。 3.イオン置換実験より、このIns【P_3】-induced currentは外液【K^+】イオン濃度に依存し、外液【Cl^-】イオン濃度変化に影響を受けなかった。 4.外液【Ca^(2+)】イオンを徐去しても、この膜電流は発生したが、神経細胞内にあらかじめ、【Ca^(2+)】イオンのキレーターであるEGTAを微量注入した後では発生しなかった。即ちこの電流の発生には細胞内【Ca^(2+)】イオンを必要とする。 5.同じ神経細胞に【Ca^(2+)】イオンを微量圧注入するとIns【P_3】-induced currentと同じslow outward current(【Ca^(2+)】-induced current)が発生し、その膜電圧依存性、イオン機構も同じであった。 6.一般的に【Ca^(2+)】依存性【K^+】currentをブロックするとされているTEAは同じ神経細胞より記録した【Ca^(2+)】-induced currentとIns【P_3】-induced currentの両者をブロックした。これらの実験結果より、Ins【P_3】はこの動物の中枢神経細胞でセカンドメッセンジャーとして働き、その神経細胞の活動を抑制することが明らかとなった。即ち、ある種の神経伝達物質が膜に結合するとイノシトール脂質の代謝回転が亢進し、その産物であるIns【P_3】が細胞内貯蔵【Ca^(2+)】イオンを放出し、この増加した【Ca^(2+)】イオンは最終的に膜の【K^+】チャネルを開き、【K^+】イオンの透過性が増大し、神経細胞は過分極し抑制を受ける。
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