これまでの研究で、サルの大脳基底核が、眼球運動の発現に重要な働きをしていることを明らかにした。黒質網様部のニューロンは通常高頻度に発火しているが、その発火を一時的に停止することによって、上丘にたいする抑制を取り除き、眼球サッケードの発現を促進する。そして、この黒質ニューロンの一時的な発火の停止は、尾状核ニューロンからの抑制に由来することが示唆された。本研究では、この仮説を、尾状核の電気刺激実験によって確かめた。具体的には、まず尾状核に微小電極を刺入して、眼球サッケードに関係するニューロンを同定した。これらは限局して存在した。同様に黒質網様部のサッケードに関係する領域を同定した。さらに、これら尾状核と黒質網様部のサッケード関連領域にガイドチューブを刺入し、固定した。これらの準備の後に、ガイドチューブを通して二本の微小電極を同時に刺入した。まず、黒質網様部の単一ニューロンの活動を記録した。そして、尾状核の電極の深さを変えながら、単一パルス電流を流して刺激し、黒質網様部ニューロンのスパイク発射にたいする効果を調べた。この実験によって明らかになったことは、1)黒質網様部ニューロンの約30%が、尾状核刺激によって抑制された、2)これらの半数以上は同時に興奮性の効果を受けた、3)尾状核刺激の効果を示した黒質網様部ニューロンの多くは、サッケードに何らかのかたちで関係しており、4)とくに、視覚依存性のサッケードではなく、記憶依存性のサッケードに関係するニューロンが多かった、5)黒質網様部ニューロンに効果をおよぼす刺激部位は尾状核の中でも限局しており、それはサッケードに関係するニューロンが限局する領域によく一致していた。以上の結果かは、尾状核から黒質網様部にサッケードに関係する情報が、おもに抑制性結合によって伝えられることが示唆された。
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