ヒヨコの内耳から単離した有毛細胞を膜電位固定し、感覚毛に加える機械刺激によってゲートされるイオンチャネルは既に60年度までに同定した。61年度は、機械刺激周波数を可聴周波数領域にまで上げ機械刺激によってゲートされるイオンチャネルの応答速度特性を明らかにする目的で研究を進めた。従来、機械刺激は圧電バイモルフを用いてガラス棒で直接感覚毛に加えていた。しかしこの方法では200Hz程度が限界であった。一方200Hz程度、あるいはそれ以上の刺激周波数の場合には、溶液中でガラス棒を振動させる事によっても、近傍であれば感覚毛を十分に機械刺激できる事を発見した。従って、感覚毛から10μm程度離れた位置で振幅5μmの機械振動をボイスコイルに取り付けたガラス棒で起す事によって、最大4KHzまでの機械刺激に対して十分なトランスダクション電流の発生を見た。位相的には刺激波形との間に大きなずれは無く、より高い周波数での刺激が可能ならば機械刺激の受容機構はそれにも十分応答できる事を示唆している。 これまでの実験は、特に細胞の起源を限定せずに行ったものである。来年度は、蝸牛器官の各部位から個別に単離した有毛細胞に対して同様の実験を行い、トランスデューサー細胞レベルでの周波数同調機能の有無あるいはその限界等を明確にしたい。
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