レニン・アンジオテンシン系と近年発見された心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、血管平滑筋や腎、さらに中枢神経系に作用して血圧と体液量の調節に対して拮抗的に働く。主に、レニンは腎からの分泌、ANPは心房からの分泌により全身に作用する。本研究は腎のレニンmRNAと心房のANPmRNAの有無を調べ、これら組織での生合成能を検討した。次に、ナトリウム摂取量を変動させた時の腎と心房におけるレニンmRNAとレニン量、ANPmRNAとANP量を測定した。ラットの腎と心房からチオシアン酸グアニジン・塩化セシウム法にてRNAを抽出し、アガロース電気泳動法にて分離後、ナイロン膜にノーザンブロットする。次に、レニンcDNAとANPcDNAをマルチプライマー法により【^(32)P】で標識し、検出用プローベとした。腎のレニンmRNA量は全RNAの0.1%以下であった。心房のANPmRNA量は数%であった。この事からレニンは腎で、ANPは心房で生合成されていることが分かる。高ナトリウム摂取により、レニンmRNAは70%減少し、それに伴い腎レニン量は90%、分泌量は80%減少した。逆に低ナトリウム摂取によりレニンmRNAは5倍に、腎レニン量は約3倍、分泌量は17倍に増加した。一方、心房のANPmRNAは低ナトリウム摂取で減少し、高ナトリウム摂取で増加した。ANPの分泌はANPmRNAの変動と一致したが、心房のANP含量は変化しなかった。このことから、ナトリウム摂取量によるレニンmRNAの変動は腎レニン含量とレニン分泌とよく相関するが、ANPmRNAは分泌とのみ相関した。 この実験により、腎と心房でのレニンとANPの貯蔵量、分泌量に加えて新たに生合成能を把握することができた。さらに、レニン・アンジオテンシン系とANPが血圧と体液量の調節にどのように作動しているかを遺伝子の転写を含め解明する。
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