この研究は高等動物のリボソーム蛋白遺伝子の構造を調べ、その発現調節がいかに行なわれているかを明らかにすることを目標としたものである。 先ず、このような研究のプローブとなるcDNAのクローニングを行なった。ラット再生肝のpoly(A)RNAに対して作成したcDNAライブラリーより、10種類のリボソーム蛋白cDNAクローンを単離し、構造を決定した。 単離したcDNAをプローブとして、リボソーム蛋白合成が盛んになることが知られている肝部分切除後の再生肝のリボソーム蛋白mRNA量を、時間を追って調べた。核蛋白のmRNA量は、術後12〜18時間で術前の2〜3倍となり、48時間でほぼ術前のレベルに帰った。これは蛋白合成の動きによく合っており、リボソーム蛋白の合成がmRNAの量によって調節されていることが確かめられた。 そこでmRNA合成調節機構を探るべく、遺伝子の解析を試みた。各蛋白のcDNAをプローブとして、サザンブロット解析を行ったところ、ラットのリボソーム蛋白遺伝子は各々が15〜20の遺伝子から成る多重遺伝子構成を取っていることが知られた。これは、リボソームRNA遺伝子が数百の遺伝子の繰返し構造を持っていることに対応するとも考えられる興味深い所見であったが、クローニングを行って調べてみると、これらの遺伝子の大部分はイントロンを持たず、cDNAと種々の程度に異る塩基配列を持った、いわゆるprocessed pseudogeneであった。種々の生物のDNAについてサザンブロット解析を行なってみたが、このような多重遺伝子構成は哺乳類のリボソームに特徴的なものであった。 このような多数の偽遺伝子の中から本来の発現している遺伝子を探り出すための、方法論的検討が必要となり、発現調節の分子構成については、成果を挙げるに至らなかった。
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