研究概要 |
肺表面活性物質の約90%はジパルミトイル・レシチン,ホスファチジルグリセロール(PG)を主成分とするリン脂質であるが、その約10%は30-40KDa糖蛋白を中心とする蛋白質で、肺表面活性物質・「アポ蛋白」と呼ばれる。この特異蛋白質の性状を明らかとし、リン脂質とのアッセンブリーと活性発現に至る過程を解析するのが本研究の目的である。昭和61年度の研究計画はほぼ円滑に遂行された。新たに得られた知見は以下の通りである。 1.「アポ蛋白」の37KDa,34KDa糖蛋白質の局在が異なることを明らかにした。つまり37KDa蛋白は小胞体に、34KDa蛋白はラメラ封入体に局在する。mRNAから生成されるprimary蛋白は30KDaであり、小胞体でこれに糖鎖がN-グリコシド結合して37KDa蛋白となる。ついでラメラ封入体へ移送の過程で細胞内プロセッシングをうけ34KDa蛋白となって肺胞腔へ分泌される。小胞体で糖鎖結合後、特異リン脂質とアッセンブリーする機構の解析は今後の課題である。 2.ラメラ封入体の主たる「アポ蛋白」は34KDa糖蛋白であるが、この他に糖蛋白ではない34KDa蛋白(PIが異なる)が認められた。この蛋白質は小胞体にも認められ、肺表面活性物質関連蛋白の一つと考えられた。 3.有機溶媒抽出画分に、脂質とともに抽出される疎水性の極めて高い新たな「アポ蛋白」が分離された。還元条件下のSDS-PAGEで分子量は6,000、非還元条件下では14,000、20,000であった。この6KDa蛋白の肺胞【II】型細胞への局在性及び表面活性発現への関与を明らかとした。 4.周産期肺表面活性物質の動態をリン脂質分子種に着目して検索、酸性リン脂質のPGとホスファチジルイノシトール(PI)は異なったCDP-DGプールから肺表面活性物質画分へもたらされることを示し得た。
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