研究概要 |
肺表面活性物質(サーファクタント)の80%以上はジパルミトイル・ホスファチジルコリン, ホスファチジルグリセロール(PG)を主とするリン脂質であるが, 約10%は「アポ蛋白」で, リン脂質-蛋白質複合体を形成する. 本研究は, 肺サーファクタントのリン脂質とアポ蛋白の代謝及びその調節機構の解明を目的として遂行された. 昭和61, 62年度の研究実績を以下に要約し, 本研究で得られた新知見と共に今後の問題点を列記する. 1.サーファクタント・アポ蛋白の構造, 機能, 代謝に関する検討 主たるアポ蛋白sp36の生合成, 細胞内プロセッシングの機構を明らかにした. mRNAからの初期生成物は30kD蛋白で, これにミクロソームで糖鎖が結合して37kD糖蛋白となり, ラメラ封入体への転送過程中で34kD糖蛋白へ加工されてサーファクタントへ出現するという代謝様式をもつことを示した. このアポ蛋白sp36の界面活性発現における役割を検討し, sp36は界面活性発現促進因子ではなく, サーファクタントの構築およびその代謝調節に主たる機能をもつことを示唆した. ついで微量アポ蛋白ではあるが, 界面活性発現促進因子として機能する6kDヒトアポ蛋白(sp6)を分離してその一次構造を決定, 脂質結合ドメイン, 抗原決定部位を同定した. サーファクタント代謝におけるsp6の役割およびsp36とsp6の相互作用の解明が今後の課題である. 2.サーファクタント・リン脂質, 特に酸性リン脂質代謝に関する検討 サーファクタント特異リン脂質のPGに代って, 胎生期では同じ前駆体から合成されるホスファチジルイノシトール(PI)が主たる酸性リン脂質となる. この時, PGとPIの分子種は明らかに異なっており, 両リン脂質は異なったCDP-DG分子種プールからサーファクタントへもたらされることが示された. このPG,PI分子種特異性の撰別におけるアポ蛋白関与の解析は今後の課題である.
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