1.膜腺腫については、まず電顕で腫瘍細胞である上皮細胞を観察し、主に星状細胞より成る皮質型、多角細胞により成る髄質型、両細胞を含む混合型、強い角化細胞より成るハッサル小体型に分類した。次に、これらの型とリンパ球の関係をモノクロナール抗体による免疫組織化学染色で検討すると、皮質型にはCD1陽性の皮質型リンパ球を主とする多数のリンパ球が浸潤し、髄質型、ハッサル小体型ではリンパ球が減少し、CD3陽性の髄質型リンパ球が相対的に増加してした。これに対しinterdigitating細網細胞(IDC)は皮質型腫瘍には乏しく、髄質型、ハッサル小体型に多く見られた。これらの結果より、膜腺腫においても、正常膜腺に類似した腫瘍細胞の分化・機能の差異があり、これがリンパ球浸潤の程度に反映されていると思われた。 2.胸腺過形成については、重症筋無力症(MG)の胸腺を対象とし、非MG成人の正常胸腺と比較しながら、上皮細胞、筋様細胞、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、IDCの細胞成分と基底膜とを免疫組織化学的に染色して解析した。その結果MG例では、髄質上皮が著明に拡大した血管周囲腔(PVS)で圧排・延長され、小型ハッサル小体が増加、胚中心はPVS中に在り、基底膜の局所的断裂を認めた。Bリンパ球は著増し、胚中心、PVS、髄質にび慢性に見られた。形質細胞、IDCもPVS、髄質にび慢性増多を呈した。筋様細胞は減少傾向にあり、ハッサル小体に群がる分布を示した。さらに、MGで過形成を呈さず、組織学的に著変のない胸腺に同様な免疫組織化学的染色を行った結果、これらにも胚中心の存在を除くと、程度は軽いものの過形成例と本質的に差異のない変化を認めた。したがってMGの胸腺では、リンパ濾胞過形成の有無に関わらず、基底膜の断裂を伴うような炎症(胸腺炎)が存在し、筋様細胞や髄質上皮に障害を来しているものと推論された。
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