脳動脈瘤の病理発生を明らかにするため、われわれの開発した実験的脳動脈瘤の初期発生像を光顕的および走査電顕的に検索した。 実験材料としては、スプラーグ・ドーリイ系ラツトに腎性高血圧を発生させ、一側の頚動脈を結紮することにより、脳動脈瘤を発症させ、種々の時期に屠殺し、実験に使用した。脳動脈瘤の好発部位である前大脳動脈-嗅動脈分岐部をタンニン酸前処置を行ない、あるいは前処置せず、これをエポン包埋し、光顕的に検索した。他の群は、同部位を走査電顕的に検索した。一部の動物には、同部位のプラスチック鋳型を作製し、その表面を走査電顕的に観察し、次のような結果を得た。 1.脳動脈瘤の初期変化は分岐部頂点ではなく、太い分枝の頂点より遠位部より始まり、変化は同部位に存在する内膜隆起の遠位側より起こることが明らかとなった。従来、頂点の中膜欠損部より動脈瘤が発生するとされていた中膜欠損説は否定され、内膜隆起を含む動脈分枝構造に基づく血行動態ストレスが、その発生原因として重要であることが確認された。 2.これら脳動脈瘤の初期変化部位では、内弾性板の変性、消失および中膜筋細胞の変性、消失が早期より認められ、これらの変化が脳動脈瘤発生の基礎的、原因的変化であることが明らかとなった。 3.走査電顕的研究においても、脳動脈瘤の初期変化である血管壁の拡張は上記部位より発生することが分り、内膜隆起と密接な関係があることが明らかとなった。この部位では、内皮細胞に風船状の小隆起、噴火口状の陥凹あるいは細胞接合部の離開などの諸変化が認められ、内皮細胞の変化が脳動脈瘤発生の引き金的変化となることが強く暗示された。
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