【I】.増殖刺戟下の変異原・癌原物質投与後の染色体切断効果:正常ラットにDMBAを投与した時は、骨髄細胞において投与後3時間より染色体切断頻度は増加しはじめ、18時間で60%と最高に達し、その後切断頻度は下降し72時間で対照群まで下降した。投与6時間の時点で種々の刺戟下での切断頻度を比べると対照群は27.6%、貧血ラットに投与した場合は45.3%と切断頻度は著明に上昇した。逆に多血症ラットでは切断頻度は17.3%と減少した。多血症ラットでもエリトロポイエチンを6unit前投与すると切断頻度31.5%と再び上昇した。DMBA誘発ラット白血病の頻度がエリトロポイエチン投与により上昇することが知られているが、これは染色体切断頻度の変化とよく一致する。NMUをラットに投与した場合では、切断頻度は1時間目から10.0%と上昇しはじめ3時間で最高に達する。貧血及び多血の同様の処置によって、この頻度はDMBAの場合と同じく変化した。構造の異なる変異原・癌原物質でも増殖刺戟かの作用は同一であった。更に、増殖刺戟の存否が標的細胞における染色体切断の増減に直接的に影響することは明らかである。 【II】.増殖刺戟下での姉妹染色分体交換の変動:ラット線維芽細胞、肝細胞、骨髄細胞を用い、それぞれ線維芽細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、エリトロポイエチン存在下で変異原・癌原物質を投与し、標的細胞の染色体に及ぼす作用について姉妹クロマチッド交換の発生頻度、分布部位を検索している。現在、その分析を急いでおり、実験結果をinvivoの系と比較検討する予定である。 【III】.その他:男性ホルモンなどの蛋白同化ホルモンもまた細胞・組織の増殖にかかわっているが、テストステロンおよびエステロゲンのDMBA誘発ラット白血病の発生率に及ぼす影響を観察した。この実験では、テストステロン投与により白血病発生頻度は著明に低下した。(71.6%→31.3%)。
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