研究概要 |
肥満とは脂肪組織の病的な増加である. 脂肪組織を構成しているものは, ほとんどが脂肪細胞であるので, 肥満とは脂肪細胞の数の増加及び容積の増加ということになる. この研究はヒト肥満者を含む肥満個体の脂肪細胞を培養条件下において, 増殖と脂質代謝機能を検討したものである. 成熟脂肪細胞は, 中性脂肪より成る単胞性脂肪滴を有し, いわゆる単胞性脂肪細胞といわれる. この細胞は多種のレセプターを有し, 活発な脂質代謝を行なっている. この細胞の培養は従来困難であったが, 私共は天井培養という新しい方法を開発し, 可能とした. 通常の培養条件下で, 単胞性脂肪細胞は接着後, 多胞性脂肪細胞, ついで線維芽細胞様脂肪細胞と形態を変えつつ増殖し, 充満して増殖がとまると再び成熟し, 単胞性脂肪細胞が生じる. 肥満の発生機序として, 血中高インシュリン状態が考えられているので, 培養条件にインシュリンを加えた. その結果, 単胞性脂肪滴は分割されずに, その単胞性誹謗滴を受けつぐ娘細胞と, 脂肪滴をほとんど持たない線維芽細胞様脂肪細胞(娘細胞)とに分裂する. 後者は活発に増殖し, その後成熟分化して単胞性脂肪細胞が生じる. このような増殖様式を単胞性脂肪滴保存型増殖(Loculus-preserving cell division)と命名した. これは, 肥満者における脂肪組織の増加の一つの機序を説明し得るものと思われる. 次に, 肥満マウス及びヒト肥満者の脂肪細胞を培養した. これらの細胞は非肥満個体の脂肪細胞に比べて1.5〜2倍の直径を有する. この場合も, 脂肪細胞は増殖し, Loculus-preserving cell divisionの形を示す. ちなみに, 非肥満個体にも, 同程度の大型の脂肪細胞が少数ながら存在するが, これらの増殖能は低い. 以上, これらin vitroでの脂肪細胞の増殖と分化に関わる知見を今後, 肥満という現象の解明と役立てていきたい.
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