研究概要 |
〔総括〕マウスをモデルとして新生仔胸腺を1ケ月令から1〜2ケ月毎に連続移植する事により(MNTG)、加齢に伴う免疫機能の低下を遅延させることが出来る事は既に報告したが(Mech.Age.Dev.28:111,1984)、今回の研究でも、C3HとC57BL/6の両系統のマウスでその効果を再確認できた。しかし、そのMNTGの効果は最初の6〜7回位までで、その後はいくら回を重ねても生存率の改善はなく、効果がなくなることが分かった。また、C57BL/6マウスにおける10回目の新生仔胸腺移植のあとの免疫学的検索でも、免疫機能にも全く回復がないことが分かった。追加実験としてで4週齢で胸腺を摘出したマウスに新生仔胸腺、或は、老化萎縮胸腺を移植しそのホストの免疫機能を見た結果、老化萎縮胸腺はただ単に機能低下をしているだけではなく、積極的にホストの免疫機能を抑制する働きのあることが明らかになった。即ち、胸腺には免疫系の発達を促進し、その機能を亢進させる作用と、逆にその機能を抑制する作用があり、前者は新生児期から思春期に強く、老化と共に低下するが、後者の抑制機能は老化と共に亢進するものと思われる。MNTGで連続的に多数移植された胸腺は時期は少しづつずれても萎縮し抑制的に働く為に、MNTGの後半になると、いくら新生仔胸腺を移植しても、免疫機能を回復させる効果が見られなくなると考えられる。B/WF1マウスではもともと自己免疫傾向にあるため、胸腺移植による免疫機能亢進効果が自己免疫の増悪につながり、蛋白尿は僧加し、寿命も短くなったものと考えられた。しかし、胸腺ホルモンの一種であるサイモシンαー1の投与がこの自己免疫現象を抑制する方向に働いたことは、予期せぬ朗報であった。この様な胸腺ホルモンは人体にも適用可能であり、今後はこれに類する種々の胸腺ペプチドを再検討する事が必要であろう。
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