研究概要 |
近交系化されたインド原産げっ菌類ミラルディアの雄は鼠径部皮下にのみよく発達した乳腺組織を有し, 加齢とともに黒色調を呈する. 肉眼的に黒色調の乳腺組織は, 組織学的にはビマン性過形成性乳腺組織を基盤にしており, その色は主として乳腺上皮が産生するかっ色色素に起因している. 電顕的には, 色素は上皮細胞細胞質内に電子密度の高い大型のライソゾーム様顆粒として存在する. 顆粒部分に鉄が存在することは, 元素分析装置付き電顕による探索と組織化学的検索により確かめられたが, 細胞内色素顆粒のかっ色調の強さや局在に最もよく対応したのはリポフスチン染色であった. 化学分析の結果通常のメラニンの存在は否定された. 腫瘍好発系のミラルディア雄においては, 半年をすぎる頃より黒色調の乳腺組織の中に色素を失った結節病変が両側性, 多中心性に発生し, やがて雄ヌードマウスに移植可能な腫瘍性病変へと進展する. SPF化近交系ミラルディアの雄も, 長期観察の結果一部の個体に乳癌が発生した. 雄ヌードマウスへの移植も好発系のものより時間を要したが成功した. おそらく好発系と同様な乳癌を発生させる遺伝要因がSPF化近交系にも受け継がれているものと考えられる. 雄のみが乳癌を自然発生する背景として, 男性ホルモンの有無, Y染色体の関与等が考えられるが, 男性ホルモンペレットを移植された雌ミラルディアを1年間観察した限り肉眼的な腫瘍は発生しなかった. しかし, 組織学的には色素に富む過形成性乳腺組織の中に色素を失った雄の初期病変に類似した導官細胞の増殖巣が認められ, さらに検討の余地が残った. 乳癌ウイルスを始めレトロウイルスの関与を示す証拠に乏しく現在, ミラルディア雄乳癌がどのような機序で発生するのか不明である. 今後は, 男性ホルモンの役割, 乳腺上皮内に沈着する三価の鉄とリポフスチンの癌発生に先行する意義を, ラディカルの生成と関連づけて追求する必要があろう.
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