研究概要 |
これまでに257名の糞線虫保有者,52名の本線虫感染既往者,392名の非感染者についてATLA抗体の検出を試み、患者群で51.5〜73.6%の高率なATLA抗体陽性率を得た。感染既往者でのATLA抗体陽性率も61.5%と高く、感染者と感染既往者の間で有意の差はみられなかった。他方、対照とした非感染者のATLA抗体陽性率は13.6〜18.4%であり、感染者および感染既往者との間に明らかな差がみられた。また、酵素抗体法によるATLA抗体価と糞線虫に対する抗体価の間には相関がみられず、糞線虫抗原による患者血清の吸収によってATLA抗体価は影響をうけなかった。糞線虫感染者では末梢リンパ球のspontaneousな増殖が著しく亢進しており、反面、各種マイトジェンに対するリンパ球幼若化反応は有意に低下していることを既に報告したが、今回はこれらのリンパ球機能について、ATLA抗体陽性グループと陰性グループの間で比較検討も行なった。その結果、リンパ球サブポピュレーションの比率、幼若化反応能、spontaneousな増殖活性、糞線虫に対する血清抗体価等のいずれの検査所見においてもATLA抗体陽性グループと陰性グループの間で統計的な有意差を認めなかった。また、ATLA抗体陽性グループにおいて本病の臨床症状等が増悪している傾向もみられなかった。これらの結果から、ATLウイルスの感染は、そのキヤリアーの段階で糞線虫の感染に対して何らかの重要な影響を与えるような免疫変調を来しているとは考えにくく、これら免疫所見はその主要な原因が糞線虫の慢性感染にあると考えられた。現在、この点を更に直接的に検討する目的で、異常所見を示すリンパ球集団にATLプロウイルスDNAの検出を試みており、ATLウイルス感染との関連を検索中である。
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