研究概要 |
大腸菌をはじめ, エルシニア・エンテロコリチカ, NAGビブリオなどの下痢原因菌は構造の類似した耐熱性下痢原因毒素(ST)を産生する. 我々はエルシニユ・エンテロコリチカSTの作用機序解明を試みてきたが, それにはさらに変異毒素が必要となった. 上記のSTのうち遺伝子がクローニングされているのは大腸菌のみであり, エルシニアSTの腸管での作用機序も基本的には大腸菌STと同一であると考えられた. そこで, 大腸菌STp遺伝子を持つプラスミド(Tc-1)を用いて, 特異的塩基置換法で特定の位置に希望するアミノ酸が導入された変異ST産生株を分離した. 1)システイン残基(Cys)を置換した変異STの性質 STpには, Cys5-Cys10,Cys6-Cys14,Cys9-Cys17の3つの架橋がある. Cys6とCys17をそれぞれA1aに置換した変異STの毒素活性は完全に消失していた. Cys5をA1aに, Cys10をSerに各置換した変異STの活性は著しく低下した. 以上のことから, STの活性には3つのS-S架橋が必要であるが, とくにCys6-Cys14,Cys9-Cys17の2つの架橋は活性発現に必須であることがわかった. Asn11をTyr,Asp,His,Gln,Arg,Lysにそれぞれ置換した変異STを作成した. すべての変異STの比活性は著しく低下し, とくにArg,Lysの置換体は活性測定が不能であった. さらに, すべての変異毒素はSTpに対する単クローン抗体および多クローン抗体と反応した. とくにArg,Lysの置換体はSTpと同程度の反応性を示した. これらの変異STはSTの作用メカニズムの解析と, ワクチン株の開発に意味があると考えられた.
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