真核細胞の蛋白合成に必須な因子であるポリペプチド鎖伸長因子2(EF2)は、【NAD^+】存在下でジフテリア毒素(DT)のA断片や緑膿菌外毒素(PA)によりADPリボシル化され不活化されるという特徴を有している。我々はEF2の構造と機能、ADPリボシル化のもつ生理的役割等を理解する目的で、DTに耐性を示す細胞を単離し、その耐性機構の解析を行なっている。毒素耐性細胞(KEEI)からcDNAライブラリーを作製し、野生型のEF2と比較した結果、毒素の標的アミノ酸である715番目のジフタミドから2つカルボキシル側のグリシンがアルギニンに変異していることが明らかとなった。このミスセンス変異が毒素耐性の直接の原因か否かを確かめる目的で、マウスL細胞に 野生型、耐性型のプラスミドをリン酸カルシウム法により導入し、毒素存在下での蛋白合成を測定した。その結果、717番目のグリシンがアルギニンに変わることが、毒素耐性形質を発現する為の必要にして十分な条件であることが判明した。この変異によりEF2は毒素によるADPリボシル化を受けず、かつEF2の機能も保存している訳である。他の独立に単離した毒素耐性細胞が同じ変異を起こしているかどうかを制限酵素切断による多型性(RFLP)診断により調べたところ、すべて同じ変異を有していることがわかり、この部分がいわゆるhot spotになっていることも明らかとなった。更に715番目のヒスチジン(ジフタマイド)を部位特異変異法(site-directed mutagenesis)を利用して他のアミノ酸に置換したところ、EF2本来の活性を失うことが明らかとなった。このことは715番目のHistidineがEF2の活性にとり重要なアミノ酸であることを示唆している。
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