研究概要 |
1.赤痢菌の病原性因子の分子遺伝学的解析:(1)C群赤痢菌のもつ大型プラスミドが細胞侵入性に関与していることは他の赤痢菌種のDNAプローブによる実験などにより予想されていたが, 今回我々は伝達実験などにより病原性に関与していることを直接的に証明した. (2)D群赤痢菌の大型プラスミド上にあるI相抗原遺伝子のクローニング;D群赤痢菌のプラスミド上のI相抗原合成遺伝子をコスミドベクターを用いてクローニングを行い, 大腸菌K12で発現させた. 得られたプラスミドpJK1137(36Kb)について制限酵素地図を作製し, またトランスポゾンを挿入して得られた挿入変異株を解析した. その結果, I相抗原合成に関与する遺伝子領域はEcoRI, SalI, HindIIIで切断した断片ESH-AおよびH(約13Kb)に存在することが明らかになった. 現在このフラグメントのサブクローニングおよびこの遺伝子がコードするペプチドの解析を行っている. 2.赤痢菌感染に対する宿主の生体防御機構:(1)赤痢菌のヒト血清に対する感受性;ヒト血清に対する感受性が赤痢菌種間で差異が認められ, 感受性はA群>B群>C群, B6>D群の順に高かった. この現象は赤痢患者血清についても起因赤痢菌種には関係なく認められた. 種々の実験結果により, このような感受性の差は各菌種の外膜の構造に対する補体殺菌たん白の作用効率の差によるものと考えられた. (2)赤痢菌感染に対するヒトの液性免疫応答;赤痢菌LPSを抗原としてELISA法により赤痢患者血清中の各免疫グロブリンクラスの抗体価を測定し, その結果IgA, IgMが発症後7日目, IgGでは12日目頃に健常人と比較して有意に高い抗体価を示した. しかし, IgA抗体がIgG, IgM抗体よりも交差反応が少なかった. しょ糖密度勾配遠心法により血清を分画して解析した結果, これらの赤痢回復初期の血清IgA抗体は多量体が主であった.
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