DNA型ヘルペスウィルス科に属するヒトサイトメガロウィルス(HCMV)は、広くヒトを侵襲するウィルスの一つであり、初感染ウィルスは長期(おそらく終生)に渡って生体内に潜伏・持続感染する特徴をもつ。さらに、HCMVはヒト胎児培養細胞をトランスフォームする活性を保持することが示され、近年、潜伏HCMVとヒトの癌との関連性が注目されるに至った。私は、生体内HCMV潜伏感染のメカニズム(ウィルス存続臓器細胞、ウィルスゲノムの存在様式とその発現調節およびウィルス再活性化機構など)の解明を目的として、ヒト由来培養細胞におけるHCMV潜伏・持続感染細胞の樹立化とそのcharacterizationを試み、これまでに以下に述べる成績を得た。 1.HCMV感染甲状腺乳頭癌由来細胞株(TPC-1)の37゜および40.5℃培養により、ウィルス持続感染および潜伏感染がそれぞれ樹立化された。 2.培養温度の昇降により、持続感染と潜伏感染状態は容易に変換された。 3.潜伏感染細胞には、ウィルス特異的前初期抗原と蛋白が検出されたが、初期蛋白の一つであるウィルス由来DNAポリメラーゼ活性は認められなかった。 4.潜伏感染細胞は、HCMVの重複感染に対し感受性を示したが、免疫抗体による補体依存性細胞傷害反応には抵抗性であった。 以上のように、この樹立化モデル系は、生体内HCMV感染様式と類似したウィルス一宿主相互関係を示すことより、今後、ウィルスゲノムの細胞内存続様式とその発現調節にかゝわる細胞因子の解析などに、きわめて有益なものと考えられる。
|