研究概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)の宿主はヒト・チンパンジーに限られている。培養細胞での増殖は1986年Sureau等がヒト肝癌細胞にHBVーDNAをトランスフェクトして始めてHBV粒子の産生を得て以来ヒト肝由来細胞に限られており、又その効率は非常にわるい。この狭い感染減はHBV遺伝子の発現が種や組織に特異的であるためと考えられる。1985年Saito等により作成されたHBV(サブタイプadr)のBglII断片(2.8kb)を組換えたアデノ5型ウイルス(Ad5ーHBL)は感染域が広く、感染後HBVーDNAの高コピー数を効率よく得られる、導入されたHBV本来のプロモーターから読まれている等の理由により遺伝子発現の特異性を比較検討するのに適当な道具であると考えた。既にAd5ーHBLをHeLa細胞に感染し8種のHBVmRNAの発現が示されており、このうち主なる種は大型HBV表面抗原(HBs抗原)遺伝子、小型HBs抗原遺伝子及びX遺伝子に由来する2.4,2.0,0.7kbのRNAである。今回12種の細胞株(ヒト由来細胞、サル由来細胞、マウス由来細胞、ラット由細胞)にAd5ーHBLを感染し発現するHBVmRNAをヌクレアーゼS1法で検討した。大型HBs抗原遺伝子及びX遺伝子はヒト・サルの細胞では発現するが、げっ歯類細胞ではほとんど発現しないという種特異性がみられた。発現するHBs抗原をRIAで定量すると、ヒト・サルの細胞では細胞質内に蓄積される大型HBs抗原発現型であるのに対し、マウス・ラットの細胞では培養液中に分泌されやすい小型HBs抗原発現型であり、mRNAの発現と相関していた。又ヒト肝癌由来細胞とマウス由来細胞の発現するHBs蛋白を抗血清と反応後SDSーポリアクリルアミドゲル電気泳動で解析し、ヒト肝癌由来細胞では大型HBs抗原が発現し、マウス由来細胞では発現していないことが確認された。
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