四日市地域における硫黄酸化物大気汚染の改善効果を判定するために種々の疫学調査を行ってきた。 1.国民健康保険のレセプトを使用した受診率および新規発生率の調査:国民健康保険の支払い明細書を使用して、慢性閉塞性呼吸器疾患(気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫)の受診率および新規発生率を調査した。受診率は、四日市で二酸化硫黄が環境基準を満たすようになってから10年以上を経過した現時点でも汚染地域(公害健康被害補償法の指定地域)の方が対照地域のものに比べて2倍以上高率であった。一方、新規発生率をみると、全年令層の気管支喘息では1980年まで、40才以上の慢性気管支炎では1979年までは汚染地域の方が高率であったが、その後汚染の改善に対応して両疾患とも対照地域のレベルにまで低下した。肺気腫はその発生率が低く、年間度の変動も大きいので疫学調査の指標としては不適当であった。 2.呼吸器系症状の有症率:1963年よりB.M.R.C.の質問調査票を簡略化したアンケート用紙を用いて、汚染地域内の40才以上の全住民を対象にして慢性気管支炎と喘息様発作の有症率を調査してきた。過去には両症状とも汚染度が高い行政地区ほど有症率は高率であった。慢性気管支炎の有症率は二酸化硫黄が環境基準を満たすまでは各地区とも上昇し、その後汚染の改善に対応して低下した。現時点では汚染の著しかった2地区を除いて対照地域のレベルにまで低下した。喘息様発作の有症率は汚染の改善により敏感に反応し、1地区を除いて対照地区のレベルにまで改善した。 3.慢性閉塞性呼吸器系疾患の死亡率:1963年より20年以上にわたって慢性閉塞性呼吸器系疾患の死亡率を調査してきた。汚染地域では二酸化硫黄が環境基準を満たすようになってから4〜5年遅れて、対照地域のレベルにまで改善した。
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