研究概要 |
近年の林業労働はかつてのそれと様相を異にしており, 国有林では振動障害予防のための新しい生産方式が実施されており, 本研究では新しい生産様式下の林業労働の労働負担の評価を試みた. 昭和62年9月, 熊本県下のS営林署管内の国有林(スギ, ヒノキ56年生, 径36cm, 傾斜30°)の1作業班8名の伐木・造材の過程を3日間調査した. 調査内容は午前・午後の作業時間帯の前後に疲労自覚症調査, 作業開始前・終了後に採血(sarcoplasmic eujyme等測定), 作業時間帯では連続心拍数測定とタイムスタディを行ない, 対象全員について自転車エルゴメータによる運動負荷試験を実施して求めた個人別の心拍数-エネルギー消費量関係を用いて労作別のエネルギー消費量を推定し, 一日を5回の測定単位に分け全尿を採取(尿中カテコラミン等測定)した. 伐木造材過程における主作業の単位作業別エネルギー消費量は, 作業密度や環境条件(下回り, 傾斜等), 作業者の体力により差がみられるが, 伐木の際の受口切り(斧1kg), 枝払い(斧0.7〜1kg), 玉懸けに5kcal/分を上回る例がみられ, 特に先山における斧作業(2.6〜6.6kcal/分)はチェンソー作業(2.4〜3.9kcal/分)に比し, エネルギー消費の面で大なる他, 安全性においても問題が多いと思われた. 他方, 盤台における造材作業は労働衛生学的に問題は少ないと判断された. 血液及び尿中成分の変動を先山作業と盤台作業に大別してみると, 先山作業では血清ALD及びCPKが作業後に有意に増加し, 尿中VMA及びノルアドレナリンは先山・盤台作業とも, またアドレナリンは先山作業でのみ午後の作業時間帯採取尿は早朝尿に比し有意の増加が認められた. これら成分の変動は事務作業はもとより, 農業(施設園芸)にみられたそれより明らかに大であり, 林業労働の特性を示すものと考えられた. 本研究結果に基づき, 林業労働の合理化のための実証的研究を今後も続ける予定である.
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