研究概要 |
有機溶剤の中でも、近年樹脂原料として広く用いられ、疫学的にも催奇形性などの次世代影響が疑われているスチレンについて検討した。昭和61年度はスチレンの胎仔移行率について、マウスを用いて妊娠動物のスチレンの分布を全身ラジオオートグラフィーにより形態学的に調べ、同時に液体シンチレーションカウンターを用いて各臓器と胎仔の器官別の取り込み率を求めた。妊娠第16日目に母マウスの尾静脈より〔14C styrene〕を投与した後、1分,5分,30分,1時間,6時間,24時間後に屠殺し、スチレンの胎仔移行率が経時的にどのように変化するかを調べた。投与直後から、量的には少ないが既に胎仔側へのスチレンの移行が見られた。5分後では母体側は肺の濃度が最も高く65.1g%,次いで胆のう15.6(以下単位は略)皮下脂肪4.5,腎1.5,肝1.45,大脳0.71,血液0.34等の順であった。これに対し胎盤は0.4(g%),羊水0.06,胎仔肝0.11,胎仔脳0.06であった。投与1時間後は胆のうが最も高く96.17(g%),肺42.5,脂肪3.9,腎2.1,肝3.8,大脳0.44,血液0.62,胎盤0.34,羊水0.53,胎仔肝0.15,胎仔脳0.20,投与6時間後は母の胆のう65.69,肺16.03,腎0.44,肝0.39,脂肪0.20,大脳0.09,血液0.28,胎盤0.18,羊水0.20,胎仔の肝0.07,胎仔の脳0.07であった。投与24時間後も、母体側,胎仔側ともにスチレン又はスチレン代謝物が残り、胎仔の脳、肝の濃度は母体の血液濃度にほぼ等しく、母体の脳より高かった。本結果から胎盤が、投与初期は一定のバリアの役割りを果していること、胎仔側への移行は多くはないが、(母の臓器の中で脳などに比較すると)時間経過後もむしろ残存する傾向が示された。ラジオオートグラフィーでは、超低温下で感光させた写真と熱をかけて揮発性成分を飛ばした後、感光させた写真を比較することによりスチレンとスチレン代謝物の臓器への移行を区別することができるが、代謝物については、約30週間の感光時間が必要であるため現在も、感光継続中である。
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