研究概要 |
Gallium arsenide(GaAs)の結晶製造および加工に従事する作業者について、頭髪と尿中のヒ素を化学形態別に測定し、無機ヒ素暴露の生物学的モニタリングを確立した。作業者および対照群の頭髪中から検出したヒ素は、無機ヒ素とジメチルアルシン酸(DMAA)であり、そのうちDMAAは体内性ヒ素と判断できるが、無機ヒ素は環境中のヒ素汚染を反映しており頭髪中のヒ素の測定は生物学的モニタリングとして用いるより、作業環境中のヒ素汚染の指標として有効であった。無機ヒ素暴露作業者群の尿中無機ヒ素濃度は、作業前と後では統計的に差がみられ(t-test,p<0.05)、この現象は作業期間中の無機ヒ素暴露を示すものであった。無機ヒ素暴露の生物学的モニタリングには、尿中ヒ素を化学形態別に測定し、無機ヒ素濃度の増加した量により評価することが精度の高い方法であった。さらに、この方法を用いると、作業からの無機ヒ素暴露と食事由来のトリメチルヒ素化合物に区別することが可能となった。 GaAsの生体影響についての動物実験から、GaAs(10〜1000mg/kg)を一回経口および腹腔内投与した結果、体内でGaAsは溶解し、その一部分は無機ヒ素とガリウムに分解することが示された。しかし、経口および腹腔内投与における溶解度を尿中ヒ素排泄量でみると、投与量に対して約0.5%未満であることから、溶解性は極めて低いことが明らかになった。さらに、GaAsから溶出した無機ヒ素は体内にそのままの化学形態で沈着することはなく、その大部分はメチル化され、メチルアルソン酸とDMAAに変換された。実験動物にGaAsを1000mg/kg一回経口投与しても、消化管粘膜には軽度の障害しかなく、GaAsは既存の無機ヒ素化合物に比較すると毒性はかなり弱いものと推測されそれはGaAsの溶解性が低いことに起因しているものと思われた。
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