研究概要 |
(1)5週齢雄性マウスにメタンフェタミン(以下MA)を20mg/体重1kg2週間投与したもの及び, β-blockerとしてプロプラノロール1mg/体重1kgおよびCa-artagonistとしてベラパミル1mg/体重1kgをMA投与30分前に投薬したものの心病変を形態学的に観察した. MA投与群では, 前回報告の通り, 光顕では心筋肥大, 萎縮, 融解, 空胞変性, 錯綜配列など, 電顕では筋原線維の過収縮やZ線の電子密度の上昇, ミトコンドリアのクリステの消失, 筋小胞体の著明な拡張や細胞膜直下の多数の小胞体(Surface vesicle)などが認められた. 一方, プロプラノロール前投与群では, このような変化はほとんどなく, 好酸性変化や筋融解などが軽度に認められた. 同様に, ベラパミル前投与群においても, MAによる心筋障害はほとんど認められなかった. 以上の結果より, MA心筋障害の発因機序として, カテコールアミンの放出などや細胞内Ca overloadなどが考えられた. (2)心筋ミオシンに関する多くの実験報告のうち, Hohらのいうミオシンアイソザイムについて検討した. ピロリン酸PAGE(ディスク)を用いて, 正常ラットを検討したところ, 泳動条件が難, Vしく, なかなか分離困難であったが, 温度条件を厳しく設定することで, V_1, V_2V_3の三バンドに分離できた. MA投与ラットについては, 現在検討中である. 以上の動物実験より, ヒト慢性覚醒剤中毒者に認められた心病変(最近10年間の剖検覚醒剤中毒者26例の心臓組織を検索したところ, 15例の症例において肥大, 線維化, 錯綜配列が認められた)がMA長期投与により発生することが示唆された. またその発因機序として, カテコールアミンや細胞内Ca overloadが関与している可能性が窺われ, これら心筋病変が肥大型心筋症と似ている点があることなども併せて考えると非常に興味深いことと思われる.
|