研究概要 |
窒息に陥った動物の肺組織における形態学的検索が端緒である. 吸入させる酸素を量的に制限して, 含まれる酸素のみ減少した空気, 炭酸ガス, メタンガス, 一酸化炭素ガスなどが混合したために相対的に酸素が減少した空気などを準備し, これらを吸入したラットの肺について検索した. 光学顕微鏡による検索では, いずれの場合でも, 肺胞の中に淡い紅色ないし桃色に染まる液体様の物質が認められたが, 種々の特殊染色で特徴的な反応を示さなかった. 電子顕微鏡によって, この物質が微細な糸屑様の形態を示し, その中に格子状, 膜状ないし糸状の構造物が見いだされ, 大きさ, 分布ならびに位置などに差異はあるが, 特に格子状の構造物が動物の新生仔の肺の表面活性物質の形態と全く同様のものであることが確認された. 更に, 司法解剖で絞頸による窒息と判定された人体例に対しても検索を行なったところ, 同様の所見が得られた. 動物実験に並び, 人体例にも肺の洗浄を行なって, 得られた液体の生化学的分析を行ない, 病的状態にない肺の洗浄液と比較したところ, 蛋白質と脂質がそれぞれ5倍と2から3倍増量していること, 脂質については肺表面活性物質の構成成分が確認された. また, 肺表面活性物質に含まれるアポ蛋白に対するモノクローナル抗体を作成し, パラフィン切片に対する免疫組織学的検索で, 上記増量が光学顕微鏡的に確認された. 以上の結果を総合すると, 窒息の際に肺表面活性物質が肺胞内に大量に分泌されること, それには酸素の減少がただ一つの要因として上げられることなどが結論付けられると考える.
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