膠原病における血管炎および血管病変の発症機序の一つとして免疫複合物の関与が推測されているが未だ明確ではない。そこで、本研究では血管内皮細胞上などの細胞膜上に存在するリン脂質と反応する抗体を想定しその検索を行った。本抗体の性状を明らかにし、膠原病における血管病変との関係を解析し、以下の結果が得られた。IgG抗phosphtidyl choline抗体は、健常人、動脈硬化性の脳血管障害患者では上昇例はなく、SLE、RA、PSSでは上昇は軽度であり、血管炎群では最も上昇が著明であった。PNで7例中6例が陽性、大動脈炎(AO)では13例が陽性であったが、その他の血管炎では、抗PC抗体は低値で陽性率も低かった。他の陰性荷電を有するリン脂質であるcardiolin、phosphotidyl inositol、P acid等との反応性を検討したが、抗PC抗体を有する血管炎管患者血清中には認められなかった。抗PC抗体価はPN、AO例ともに、非活動期では正常範囲内に低下し、疾患活動性とはよく相関した。また、抗PC活性はPC抗原の添加により抑制されること、および抗体を精製しPepsin処理によりIgGのF(ab2)'部分に活性が存在したことからIgG抗体であることを証明した。本抗体はphospholipidのcholine-phosphate部分を認識する抗体であることを確認した。血管炎患者血清中には抗PC抗体が存在し、この抗体はphosphatidyl cholineの頭部と反応し、血管炎の発症に重要な抗体であると考えられた。 抗リン脂質抗体の中でも、陰性荷電を有するcardiolipin、phsphatidyl serine等のリン脂質と反応する抗体は、主としてSLE患者血清中に認められ、血栓症とくに脳血栓症状の発症との関連が示唆された。Cardiolipinを主体とする抗リン質抗体は、古典的な膠原病とは診断できない患者にも存在し、これらの患者では、本抗体と中枢神経症状、血栓症の発症とが強く関連していることが示唆された。
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