研究概要 |
近年、肝細胞癌の発生にB型肝炎ウィルスなどの関与が明らかにされつつあるが、発癌の機序に関しては、未だ不明な点が多い。一方、癌遺伝子が細胞増殖、分裂の制御に重要な役割を果たしていることが示唆されている。そこで、今回、肝細胞癌と癌遺伝子、ならびに各種細胞増殖因子膜レセプターとの関連を検討するため、各種ヒト肝細胞癌由来培養細胞(PLC/PRF/5,Hep G2)における癌遺伝子の発現状況、さらにinsulin,EGF(epidermal growth factor)およびIGF-I(insulin like growth factor-I)などの細胞増殖因子の細胞膜レセプターを検討した。1.各種ヒト肝癌細胞における癌遺伝子のmRNAとDNAの検出はQuick-【Blot^(TM)】Kitを用い、癌遺伝子のうちmyc,erbB,erbA,fos,Hras,Kras,Nras,sis,abl,raf,fes,srcをプローベとしてautoradiographyにより測定した。また各細胞においてヒトEGFを100mg/mlの濃度で培養液中に添加し、各細胞の各種癌遺伝子の発現量の変化を経時的に検討した。その結果、PLC/DRF/5細胞,HepG2細胞とも検索した全ての癌遺伝子のmRNA,DNAが検出され、そのうちablおよびfesではmRNA,DNAとも他の癌遺伝子に比しやや増加していたが、両細胞間で有意な差は見られなかった。またEGF添加による各癌遺伝子発現の経時的変化の検討では、DLC/PRF/5細胞HepG2細胞いずれにおいても有意な変化は認められなかった。2.PLC/PRF/5細胞およびHepG2細胞において【^(125)I】-insulin,【^(125)I】-EGF,【^(125)I】-IGF-Iを用いたradioreceptor assayでの検討では、PLC/PRF/5細胞およびHepG2細胞いずれの細胞株でも【^(125)I】-EGFの結合率は高く、【^(125)I】-insulinの結合率は低かった。一方、【^(125)I】-IGF-Iの結合率は、PLC/PRF/5細胞においてHepG2細胞より有意に高値を示した。以上、肝癌細胞での癌遺伝子発現が明らかであり、また細胞により膜レセプター動態に差を認めたことから、これらと癌化とが何等かの関連性を有することが示唆された。
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